きらいなもの #01 消しゴム

とにかく消しゴムが嫌いだ。

 

なぜ、書いたものを消すのに、

労力を費やさねばならないのか。

 

といったカッコイイ理由ではなく、

消しゴムが苦手なのだ。

とにかく難しい。

力の入れ加減が、実に難しい。

 

ガシガシやりすぎて、

買いたての、まだ角が、

キュッと鋭角の消しゴムの頭が、

何度もげてしまったことだろう。

あの消しゴムが消し去ったのは、

そこに書かれた文字ではなく、私の集中力である。

 

さらに最悪なのは、紙まで破けたとき。

それがテスト中だったりしたら、さあ大変。

手に滴る冷や汗を吸い込む、破れた解答用紙。

もう、無茶苦茶だ。

持ち場に戻れと言いたいが、

司令塔がパニックだからそれもかなわない。

 

そんなわけで、子どもの頃から、

とにかく消しゴムがきらいだ。

シャーペンで書き損じたって、

消しゴムなんて絶対に使ってやらない。

ぐちゃぐちゃってやれば、それでオーケイなのだ。

ノーモア・イレイザー!と掲げて、約15年。

思わぬ伏兵が現れた。そう、フリクションだ。

 

こすると消えるペンって…(苦笑)と思っていた。

てか消えた“風”でしょ?そんなキレイに消えないでしょ?

だが、消えたのだ。すごい消えた。なんだこれ。

書いて消して書いて消して、書いて書いて消して消して消して、

消すために書いているのではないかという、

禅問答的なやり取りが頭の中でかすめるほどに、

書いた。そして、破れた。紙が。

 

まぁ試験中でもないし、今回はよしとしようじゃないか。

もう大人だし。調子に乗った私のせいだし。

というわけで、まだフリクションを諦めなかった。

書いて書いて書いて消して、書いて、消して、くらいに改めた。

のだが、どういうわけだろうか、消すたびになんか紙が汚くなる。

いよいよ手から汚水が湧き出したのかと

ゾッとしたのだが、そうではなかった。

 

ただ単純に、ズボラ人間には、あのラバー部分を、

きれいに保っておくことが不可能だったのだ。

 

消せば消すほどに、汚くなりゆく、紙。

消しているつもりなのに、汚れていく、紙。

ただの、きたない、紙。

 

私はフリクションを諦めた。

でも、書き味が気に入ったので、

フリクションフリクションしないで使っている。

これが、背徳感というやつか。

こうして私は、ようやく消しゴムを攻略したのだった。